ライバー所属契約書の書き方|報酬分配・専属・肖像・卒業時の条項と、未成年の保護者同意に書く項目
ライバー事務所の所属契約でトラブルになるのは、報酬の分配、専属の範囲、卒業時のアカウント、未成年の同意の4か所にほぼ集中します。ライバー事務所を自社グループで運営している立場から、所属契約書に何を書くかを条項ごとに整理し、事務所の方針で変えてよい箇所を示します。
所属契約で揉める4つの場面
ライバー事務所と配信者の間で起きるトラブルは、ほとんどが契約書の決まった箇所に集中します。
- 報酬の分配:「ライバー70%」と書いてあっても、プラットフォームの手数料を引く前の額か後の額かで手取りは大きく変わります。「売上」「収益」「報酬」を定義せずに使うと、支払のたびに食い違いが起きます。
- 専属の範囲:「専属」の一言だけでは、別のアプリでの配信や個人で受けた案件まで禁止されるのか分かりません。
- 卒業(退所)時の扱い:最後の月の報酬が払われない、事務所がアカウントのパスワードを握っていて返してくれない、という相談は少なくありません。
- 未成年の契約:保護者の同意がない契約は、民法第5条により取り消されるおそれがあります。
この記事では、所属契約書(業務委託型)に何を書くかを条項ごとに整理し、事務所の方針で変えてよい箇所を示します。契約の種類と締結の流れは別の記事で扱っているため、ここでは契約書の中身に絞ります。
条項ごとの書き方
前提として、契約の性質の条項に「本契約は業務委託契約であり、雇用関係を生じさせない」「配信の日時・場所・内容は乙(ライバー)の裁量で決める」と明記します。配信時間を事務所が指定して拘束したり、配信しないと罰金を科したりする運用は、実態として労働者性があると判断される要素になり得るため、配信の目標は「達成するよう努める」にとどめます。
専属か非専属か
専属の範囲は、プラットフォーム単位で書くのが実務的です。専属にする場合は「乙は、甲の事前の承諾なく、別紙に定めるプラットフォームにおいて、甲以外の事業者の管理の下でライブ配信を行ってはならない」のように、対象のプラットフォームを別紙で特定します。非専属にする場合は「別紙に定めるプラットフォーム以外では、乙は自由に活動できる」とします。新人は専属、実績のあるライバーは非専属という使い分けが一般的です。
事務所の方針で変える箇所:専属の範囲(プラットフォーム、企業案件、SNSの収益)。専属にする分だけ、事務所側の支援内容(研修、案件の獲得、誹謗中傷への対応など)を具体的に書くと、ライバー側の納得が得やすくなります。長期の専属義務や移籍の制限が過度になると、独占禁止法上の問題を指摘されるおそれもあります。
報酬の分配率と計算の基準・支払時期・最低支払額
最も揉める条項なので、計算式を一文で書きます。例:「本報酬は、プラットフォームから甲に支払われた金額(プラットフォームの手数料を控除した後の金額)に、別紙に定める分配率を乗じて算定する」。これで「何に対する何%か」が決まります。
あわせて、締め日と支払日(例:毎月末日締め、翌月末払い)、振込手数料の負担、源泉徴収の有無、最低支払額に満たない月の繰越、明細の交付を書きます。繰越を設ける場合は「契約終了時には繰り越した全額を支払う」と添えておかないと、卒業時の未払いにつながります。企業案件やイベント出演の報酬は、案件ごとに事前に書面で合意する形にします。経費については「事前の承諾なく費用の負担を求めない」の一文を入れると、後から研修費などを引かれるトラブルを防げます。
変える箇所:分配率、支払日、最低支払額。なお、事務所が従業員を使用している場合、フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)により、業務委託の際に報酬額や支払期日などを書面または電磁的方法で明示する義務や、報酬を原則60日以内に支払う義務が課されます。別紙に報酬条件をまとめることが、そのまま明示義務への対応になります。
配信ルールと禁止事項
配信ルールは「プラットフォームの利用規約と関係法令を守る」「事務所が事前に交付した配信ガイドラインを守る」の2点が中心です。禁止事項には、一般的な権利侵害や誹謗中傷に加えて、ライバー特有のものを入れます。視聴者から直接金銭や物品を受け取る行為、視聴者と私的に金銭の授受や面会を行う行為、複数アカウントによる報酬の不正取得、報酬条件の口外です。報酬条件の口外禁止は、他の所属ライバーとの比較トラブルを防ぐためです。
変える箇所:「その他、甲が禁止した行為」のような包括的な条項は、広すぎると一方的に見えます。具体例は配信ガイドラインに書く運用をおすすめします。
肖像・配信データの利用許諾と終了後の扱い
氏名、活動名、肖像、音声、配信のアーカイブや切り抜きを、事務所がどの目的で使えるかを決めます。ポイントは4つです。
- 目的を列挙する。事務所の事業紹介、配信の告知、企業案件の宣伝のように限定し、「その他一切の目的」という書き方を避ける
- 第三者への販売や再許諾には、ライバーの承諾を要するとする
- 終了後の扱いを決める。契約終了後は新たに利用しない、既存の掲載物は一定期間だけ残せる、削除の要請には合理的な期間内に応じる、の3段階にする
- 著作権の帰属を分ける。配信そのものの著作権はライバー、事務所が作ったサムネイルやロゴは事務所
変える箇所:終了後に掲載を残せる期間(3〜6か月程度にする事務所が多い印象です)。事務所が切り抜きチャンネルを運営する場合は、目的に「切り抜きチャンネルへの投稿」を加え、その収益の分配も報酬条件に加えます。
SNSアカウントの帰属
退所トラブルで最も多いのがアカウントの奪い合いです。「配信アカウントと告知用のSNSアカウントは乙に帰属する」「甲は乙の承諾なく乙のアカウントにログインしない」「甲の名義で開設した公式アカウントは甲に帰属する」と分けて書きます。
変える箇所:事務所がアカウントを開設して貸与する方式なら「甲に帰属し、契約期間中は乙に利用させる」とし、終了時の引継ぎを加える必要があります。
契約期間・更新・卒業時の扱い
期間は6か月〜1年、自動更新ありが一般的です。「期間満了の30日前までにどちらからも申出がなければ、同一条件で更新する」と書きます。解除は、重大な違反、禁止事項への違反、プラットフォームからの永久停止、反社条項への違反のときは催告なく即時に、それ以外は一定の予告期間を置いた任意解約を、事務所とライバーの双方に認める設計にします。事務所だけが解約できる片面的な条項は、トラブル時に不利に働くことがあります。
卒業時の扱いは、次の4点を並べます。終了日までに発生した報酬は通常の支払日に支払い、終了を理由に拒まない。終了後は所属の表示をやめる。他の事務所への所属や単独での配信は自由。相互に誹謗中傷しない。
変える箇所:予告期間(30〜60日が多い)。フリーランス法では、6か月以上の業務委託を中途解除する場合、原則として30日前までの予告が求められます。終了後の競業避止を入れる場合、期間や範囲が広すぎると無効と判断されることがあるため、弁護士に確認してください。
損害賠償と反社排除
損害賠償は「通常生ずべき損害(相当因果関係のある損害)に限る」とします。「違反1回につき100万円」のような定額の違約金は、ライバー側の反発を招くうえ、実際の損害と乖離すると争いになります。反社会的勢力の排除は、双方が該当しないことを表明して保証する、違反があれば催告なく解除できる、解除した側は損害賠償の責任を負わない、という定型の3項を入れます。
電子契約による締結の条項
電子契約で結ぶ場合は、その旨を契約書に書いておきます。例:「本契約は電子契約サービスを用いて電磁的記録により締結し、甲および乙は締結済みの電磁的記録を各自保管する」「この電磁的記録は書面による契約書と同等の効力を有する」。
なお、電子署名法第3条の「真正に成立したものと推定する」効果は、本人による一定の要件を満たす電子署名(PKI)が行われた電磁的記録が対象です。電子サイン方式のサービスはこの推定の対象ではなく、本人確認の方法、合意の日時、文書のハッシュ値などの記録で「誰が・いつ・どの文書に」合意したかを示します。
未成年ライバーの保護者同意に書く項目
民法第5条は、未成年者が法律行為をするには法定代理人の同意が必要で、同意のない行為は取り消すことができると定めています。2022年4月1日の改正で成年年齢は18歳になったため、対象は18歳未満のライバーです。契約書本体には「乙が未成年者の場合、本契約は法定代理人が保護者同意書により同意したときに効力を生じる」という特則を置き、同意書には次の項目を入れます。
- 同意の対象の特定:「活動に同意します」だけでは不十分です。契約書の日付を特定し、配信活動、肖像の利用、報酬の振込先まで対象に含めます。
- 契約内容を読んだことの確認:報酬の計算方法、専属、期間、解除、終了時の扱いを事前に受け取り、理解したうえで署名する旨。
- 法定代理人であることの確認:民法第818条第3項により、親権は父母の婚姻中は共同で行うとされています。両親とも署名するのが最も安全で、難しい場合は一方が他方の意向を確認した形を残します。本人確認書類や続柄が分かる書類を求められる旨も書きます。
- 保護者の関与:学業や健康への配慮、配信の時間帯を年齢と生活状況に照らして適切にすること、トラブル時の協力。
- 報酬の受取口座:本人名義か保護者名義か。
- 成年到達後の扱い:17歳で契約し、期間中に18歳になるケースが多いため、「成年に達した後は本人との契約としてそのまま効力を有する」と書きます。
- 同意の撤回:学業や健康などやむを得ない事情があるときは将来に向かって撤回でき、撤回後は契約の終了や活動の休止を協議する。
変える箇所:振込先、撤回の手続、連絡先の項目。プラットフォームによっては未成年の登録自体を認めていない、または保護者同意の提出を求めている場合があるため、利用規約も確認してください。
まとめ
- 報酬は「手数料控除後の金額×分配率」のように計算式を一文で書き、締め日・支払日・最低支払額・明細の交付まで決める
- 専属の範囲はプラットフォーム単位で特定する
- 肖像・配信データは目的を列挙し、終了後の扱いを3段階で決める
- アカウントはライバー帰属を原則とし、事務所は無断でログインしない
- 卒業時は「終了を理由に報酬を拒まない」を明記する
- 18歳未満は保護者同意書を契約の効力要件にし、同意の対象・成年到達後・撤回を書く
本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の事案に対する法的助言ではありません。契約書の作成にあたっては弁護士にご相談ください。
よくある質問
- 業務委託契約書と所属契約書は何が違いますか?
- 名称の違いで、法的な効力に差はありません。ライバー事務所では「所属契約書」「マネジメント契約書」という名称で、中身は業務委託契約という形が一般的です。この記事で扱う条項も業務委託型を前提にしています。
- 分配率は何%にすればよいですか?
- 事務所の支援内容によって幅があり、一概には言えません。プラットフォームの手数料を控除した後の金額に対してライバー50〜80%の範囲で設定している事務所が多い印象です。率そのものより、「何に対する何%か」を一文で定義し、明細を毎月交付することのほうがトラブル防止には効きます。
- 18歳の高校生ライバーに保護者の同意は必要ですか?
- 民法上は18歳で成年なので、法定代理人の同意は不要です。ただし、高校在学中であることやプラットフォームの年齢要件を踏まえ、保護者に契約内容を共有する事務所も多いです。その場合は「同意書」ではなく「確認書」として、本人の契約の効力に影響しない形で取るとよいでしょう。
- 契約書に収入印紙は必要ですか?
- 電子データとして作成・締結した場合は、印紙税法上の課税文書の作成に当たらないとされており、印紙は不要とされています。紙で作成する場合、業務委託契約書は内容によって課税文書に該当することがあります。
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参考・出典
- 民法 第4条・第5条・第818条(e-Gov 法令検索)
- 法務省「民法(成年年齢関係)改正 Q&A」
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)(e-Gov 法令検索)
- 公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」
- 電子署名及び認証業務に関する法律(e-Gov 法令検索)
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