電子契約の法的効力|同意ボタンや手書き署名で結んだ契約は有効か
「画面のボタンを押しただけで契約になるのか」「紙にハンコを押さなくて大丈夫か」。電子契約を検討するとき、最初に出てくる疑問です。契約の成立、証拠、そして書面が必要な例外の3つに分けて整理します。
民法522条(契約の成立と方式)|契約の成立に書面は原則不要
(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
民法第522条第1項は、契約は申込みに対して相手方が承諾をしたときに成立すると定めています。そして第2項で、法令に特別の定めがある場合を除き、契約の成立には書面の作成その他の方式を具備することを要しないと明記しています(2020年4月施行の改正民法で条文として明文化されました)。
つまり、紙の契約書にハンコを押すことは、ほとんどの契約で成立の要件ではありません。口頭でも、メールでも、画面上のボタンでも、申込みと承諾の合意があれば契約は成立します。電子契約が「法的に有効か」という問いに対しては、まずこの原則が出発点になります。
法務省が2020年6月に公表した「押印についてのQ&A」でも、契約書に押印をしなくても契約の効力に影響は生じない、という趣旨が示されています。
問題は「成立」ではなく「証明」
契約が成立するかどうかと、後で争いになったときに合意の事実を証明できるかどうかは、別の問題です。紙の契約書にハンコを押してきたのは、成立の要件だからではなく、証拠として強かったからです。
民事訴訟法228条の考え方
民事訴訟法第228条第1項は、文書を証拠として使うには、その文書が真正に成立したこと(作成名義人の意思で作られたこと)を証明しなければならないとしています。同条第4項は、私文書に本人の署名または押印があるときは真正に成立したものと推定する、と定めており、紙の契約書でハンコが重視されてきた理由はここにあります。
電子契約では、このハンコの代わりになる「本人が合意したことの裏づけ」を、どう残すかが問われます。
電子署名法との関係
電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)第3条は、本人による一定の要件を満たす方式で署名された電磁的記録について、真正に成立したものと推定する、と定めています。電子証明書と暗号技術を用いた方式(PKI)を前提とした規定で、2020年には、クラウド型の電子契約サービスに関する政府の見解も公表されています。
一方で、この推定規定を用いない電子契約も広く使われています。メールアドレスによる本人確認と、誰が・いつ・どの文書に合意したかの記録を残す方式で、一般に「電子サイン方式」と呼ばれます。FIN SIGN はこの方式です。推定規定に頼らない代わりに、合意の事実を示す記録を証拠として揃えておく、という考え方になります。
証拠として残しておきたい記録
- 本人性:本人のメールアドレスにだけ届く URL、担当者が別途伝えるアクセスコードなど、本人しか開けない仕組みで認証したこと
- 意思表示:契約書を最後まで表示したうえで確認事項にチェックし、署名または同意の操作をしたこと。その日時
- 文書の同一性:合意した時点の PDF のハッシュ値。後から差し替えられていないことを示す
- 操作の履歴:送信・閲覧・署名・完了の各操作が、改ざんできない形で時系列に残っていること
FIN SIGN では、これらを「合意締結証明書」として締結のたびに自動で発行し、締結済みの PDF とともに双方に届けます。証明書には、合意の方式(手書きの署名か同意ボタンか)と、電子署名法第3条の推定を主張するものではないことも明記しています。
書面が必要な契約の例外|民法446条の保証契約など
民法522条第2項の「法令に特別の定めがある場合」に当たる契約があります。代表的な例を挙げます。
- 保証契約:書面でしなければ効力を生じない(民法第446条第2項)。ただし電磁的記録によってされたときは書面によってされたものとみなされる(同条第3項)
- 定期建物賃貸借・定期借地権:借地借家法で書面が求められてきたが、2022年5月の改正で電磁的記録による締結が認められた
- 訪問販売・特定継続的役務提供など:特定商取引法上の書面交付義務。相手方の承諾を得た場合に電磁的方法での提供が認められる
- 建設工事の請負契約:建設業法第19条で書面が求められ、相手方の承諾を得たうえで一定の技術的基準を満たす電磁的措置が認められる
民法第四百四十六条
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
このように、多くは電磁的方法での代替が認められる方向で整備されていますが、相手方の承諾や技術的要件が条件になっているものがあります。自社の契約が該当しそうな場合は、根拠となる法令と施行規則を確認するか、弁護士に相談してください。
実務での落とし穴
「誰が押したか分からない」を避ける
会社の代表アドレスに送って、誰が操作したか分からない状態で締結すると、本人性の裏づけが弱くなります。契約の当事者本人、または権限のある担当者のメールアドレスに送ることが基本です。
締結後の保管
締結済みの PDF と証明書を、後から検索できる形で保管しておくことも、証拠の一部です。電子取引のデータ保存には電子帳簿保存法の要件もあります(別の記事で解説しています)。
FIN SIGN での締結の流れ
お手元の契約書 PDF をアップロードし、署名欄を置いて、相手のメールアドレスに送ります。相手はスマートフォンで URL を開き、必要ならアクセスコードを入力し、内容を最後まで確認してから手書きの署名か「同意する」ボタンで合意します。締結が終わると、締結済みの PDF と合意締結証明書が双方に届きます。相手側にアプリのインストールや会員登録は不要です。
契約書の内容は利用者が用意したものをそのまま使います。FIN SIGN は契約書の中身には関与せず、締結と記録と保管の手段を提供します。
まとめ
- 多くの契約は合意だけで成立し、書面は成立の要件ではない(民法522条)
- 争いになったときは合意の事実を証明する必要があり、記録の残し方が重要(民事訴訟法228条)
- 電子署名法第3条の推定を使う方式と、記録を証拠として揃える電子サイン方式がある
- 保証契約や一部の業法上の契約など、書面や相手方の承諾が求められる例外がある
本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な契約については弁護士にご相談ください。
よくある質問
- 電子契約は紙の契約書と同じ効力がありますか?
- 多くの契約は、申込みと承諾の合意があれば成立し、書面は成立の要件ではありません(民法522条)。電子で合意した契約も、合意があれば成立します。争いになったときに合意の事実をどう証明するかは別の問題で、記録の残し方が重要になります。
- 「同意する」ボタンを押すだけの方式は弱くありませんか?
- 方式そのものの優劣より、誰が・いつ・どの内容に同意したかを後から示せるかが問われます。本人しか開けない URL とアクセスコードでの認証、閲覧と同意の操作の記録、文書のハッシュ値、これらを証明書として残しておくことが、証拠の裏づけになります。
- 電子契約にできない契約はありますか?
- 法令で書面の作成や交付が求められている契約があります。多くは電磁的方法での代替が認められるようになっていますが、相手方の承諾が必要なものや、なお書面が求められるものが残っています。該当しそうな契約は、事前に根拠法令を確認してください。
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参考・出典
- 民法(e-Gov 法令検索)第522条・第446条
- 民事訴訟法(e-Gov 法令検索)第228条
- 電子署名及び認証業務に関する法律(e-Gov 法令検索)第2条・第3条
- 法務省「押印についてのQ&A」(令和2年6月19日)
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本記事は一般的な情報の提供を目的としており、法的・税務上の助言ではありません。法令の内容は公開時点のものです。個別の判断は弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。